27Feb
僅か0.1g単位の軽量化で、しのぎを削るベイトフィネススプール。
しかしスプールの重量なんて、実はどうでも良い問題だった!?
リールカスタムのカリスマが明かす、衝撃の真実をお届けします。
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“特別寄稿”企画スタート!!
みなさんこんにちは、ディープストリームのKenD(けんでぃ)です。
さて昨日予告致しましたように、今年のDeeeP STREAMでは各ジャンルの達人からの「寄稿」を充実させていきたいと考えています。
(キーワードは、「広く深く」!)
というわけで祈念すべき第1回となる今回は、「ベイトフィネススプールの不都合な真実」について。
リールカスタム界で”神”と呼ばれるカリスマ・アングラー、「ふじ」さんの特別寄稿をお送りしたいと思います。
私自身、衝撃だったこの内容・・・豊富なデータが明かす、軽量スプールの深淵に震えて下さい!!
特別寄稿その1. スプール重量と慣性モーメントの関係
皆様はじめまして、今年よりリールの技術的考察に関して寄稿することになりましたふじと申します。
普段は大型機械の機械設計や評価業務を行う傍ら休日にはベイトタックル片手にバス、ソルト問わずほぼ毎週どこかへ釣りに行っています。
たまたまKenDさんとお会いして釣りをする機会がありまして、そこからあれよあれよと記事を寄稿する流れになりました。
さて、私自身の話はこのくらいにして本題に入りたいと思います。
今回のスプールに関するお話は少し長くなりますのでキリの良いところ分割してお送りします。
少し小難しい話も交えますが、知っておいて損はない内容だと思いますのでお時間があればお付き合いください。
スプールは軽い方が軽量ルアーに適している?
さて、DeeeP STREAM管理人であるKen-Dさんのこよなく愛する13メタニウム系リール、その中でも最新の16メタニウムMGLは世間でも評判が良いですよね。
3代目になるSVS∞は外部ダイヤルの調整幅が広がり、NewMGLスプールは10g前後の軽量ルアーの使い勝手が明らかに向上。
見た目でもスプールドラム側面のブランキングはインパクトが強いですよね。
しかし、Newマグナムライトスプールは決して軽量というわけではありません。
実際、ベアリング込みでスプール重量は14gあります。
一般的に、スプールは軽い方が軽量ルアーに対応していて使いやすいと言われていますがそのあたりの詳しい話は調べてみてもなかなか出てきません。
そこで私は第一回の内容としてこのNewMGLスプールを教材として、スプールの重量や素材についていろいろなお話をしたいと思います。
そもそも”慣性モーメント”って?
皆さんがリールの情報を見るときには釣具メーカーのHPを見る事が多いと思います。
昔なら釣具屋でカタログをもらってそれを読んだりしましたが今はスマホですぐ見れますね。
シマノのHPでメタニウムMGLのページを見ますとNewMGLスプールは当社比で慣性モーメントの10%低減を達成し20%の飛距離アップをマークした、と書かれています。
まず読んでみて思うのは、慣性モーメントって何だろう?という話ですよね。
Wikipediaで慣性モーメントを調べても小難しい言葉が並んでいるだけで知らない人にとっては全く何のことか分からない書き方になっています。
そこでもっとわかりやすい説明を見つけました。
ある軸の周りに回転運動する物体が同じ回転運動を保ち続けようとする回転の慣性の大きさを表す量。
慣性モーメントが大きいほど,回転運動の変化を起こさせにくい。
回転軸に対する物体の質量分布によって決まる。慣性能率。
(weblio辞書より引用)
要は慣性モーメントというものは『回転のしにくさ』、『回転の止めにくさ』をあらわす量であるという事です。
慣性モーメントという値が大きいと止まっている状態から回すのに苦労をし、今度は回り始めたら止めるのに苦労する…という事です。
つまりシマノは慣性モーメントを減らしてルアーを投げた瞬間に回転しやすくブレーキに反応して止まりやすい、要は力を入れなくてもよく飛んでブレーキがよく効く(バックラッシュを起こしにくい)スプールに改良したと言う事です。
MGLスプールの慣性モーメントははベイトフィネススプール並み!?
では実際にスプールの持つ慣性モーメントについて触れてみましょう。
私の方で二つのスプールの3Dモデルを用意しました。
(仕事とは違う3DCADソフトを使用するのはちょっと難儀でした…)
一つはメタニウムMGLのNewマグナムライトスプールを計り取りして作成した3Dモデル。
自重はベアリング込みで14gです。
もう一つは同じく実機寸法を測った16REVO-LTX,ALCのベイトフィネススプールの3Dモデル。
自重はベアリング込みで7.7gです。
自重については実物とも測り比べているので差はほとんどありません。
(KenD注:この記事のためにスプールの実物を破壊して調べたのだとか・・・汗)
勿論、メーカーの持っている正式な図面データから3Dモデルを起こした訳ではなく、あくまで簡単な計器で計り取りをして、それっぽく作っただけですのでおかしい部分があるかもしれません。
それでも話をする上ではモチーフがある方が分かりやすいのでここではこのまま使用させていただきます。
(特にレボのスプールが怪しいので…)
何故3Dモデルを手間暇かけてわざわざ作成したかというと、作成した3Dモデルを使用して慣性モーメントを割り出す為です。
それでは早速スプールの回転部分での慣性モーメントを見てみましょう。
この場合、スプールベアリングは回転部分に入りませんのでベアリングを抜いた値で比べます。
(厳密にはベアリング内輪は回転部分に入りますが面倒なので無視します)
下の表は両スプールのベアリングを抜いた後の値です。
両スプールの慣性モーメントを見てみましょう。
lxx=…の部分にご注目下さい。
NewMGLスプールは…712g・mm^2
それに対してLTXは…705g・mm^2
両者はほとんど変わらないですね。しかも…ブレーキユニットをお互い取り外すと関係が逆転します。
と言うことはブレーキユニットまでついた状態でのスプールの回りやすさは大差ないということになります。
LTXはベイトフィネススプールと言われていて回りやすいはずだし、そもそも重さもLTXの方がだいぶ軽いじゃないか、とお思いの人も多いかと思います。
そこについて説明をしていきたいと思います。
ちなみに、スプールの肉厚はMGLスプールの方が厚く作ってあります。
重要なのは、「どこが重いか」
それではまず両者のスプールで慣性モーメントに大差がない、むしろブレーキユニットなしの状態では慣性モーメントが逆転することについて説明をしたいと思います。
慣性モーメントというのは回転中心から離れた位置に重量物があると増加する傾向がみられます。
ちょっと難しい話になりますが、慣性モーメントの計算式を見たいと思います。
スプールの形状に近い円筒の慣性モーメント計算式を見てみると
計算式の中に2乗が入っているのに気が付くと思います。
何が言いたいかというと、
「慣性モーメントはモノの重さに比例して増えていきますが、物の直径に対しては2乗に比例して増えていく」という事です。
ということは回転物の径が大きければそれだけで慣性モーメントは大きくなるという事です。
それならばなおさらLTXのスプールは直径32mmなのに対してNewMGLスプールは直径34mmだよね?おかしくないか?と思われる方も多いと思います。
でも、大事な部分は“最外径”だけではないのです。
スプールのどの部分に重さが集中しているかが重要になります。
ベイトフィネススプールは例外なく浅溝ですよね。
ということは普通のリールよりスプールの糸巻き部分がエッジ側に出てきていて直径が大きいです。
そうです、短いエッジしかないスプール最外径よりもスプールの大部分の体積を占める糸巻き部分の寸法の方がよっぽど慣性モーメントの値に効いてくるのです。
スプール糸巻き部は強度の為にスプール最外径よりも厚く作られますのでなおさらです。
よって、糸巻き部分の径が大きいスプールは必然的に慣性モーメントが高くなります。
だったらベイトフィネススプールなんていらないのでは?となりますが、糸を巻いた状態で比べると大差をつけてベイトフィネススプールが勝ちます。
これについては次回にでも詳しく書きたいと思いますので今回は割愛させていただきます。
“シャフトの素材”が決定打
次は、慣性モーメントがほとんど同じなのに自重が2倍近く違う点について話をしたいと思います。
LTXのスプール重量が6.2gであるのに対しNewMGLスプールが12.4gであるのに慣性モーメントにはほとんど差がない。
それではこの両者で何が違うのでしょうか。
実はこれ、スプールシャフトの素材が違うのです。
シマノのスプールは頑丈で重いステンレスを素材にしてシャフトを製作しています。
それに対してLTXのスプールシャフトはアルミ系素材でできています。
(おそらく超々ジュラルミンだと思いますが正式な記述資料が無いため推測です)
じゃあ、シマノのスプールシャフトをアルミ素材に替えたらスプール重量はどうなるの?
3Dモデルのシャフトを超々ジュラルミン(A7075)に変更した結果…こうなりました(笑)。
何とブレーキユニット込みで約8.8g!!
ものすごく軽いですよね。
ということはシマノは軸に重い素材を使っているだけで決して重いスプールを作っているわけではないと言う事が分かります。
恐るべし純正スプール。
逆に言うと、サードパーティ製のシマノ用超軽量スプールはこんなからくりでできているのが分かります。
見た目の重量が軽くなるので宣伝効果もありますしね。
(G1ジュラルミンをスプールドラムに使用したスプールに関してはまた別の話になるのでどこかでお話しします)
ちなみに気になる慣性モーメントはステンレスシャフト時に711g・mm^2に対し、アルミシャフトの場合は703g・mm^2。
差にすると約1%というところでしょうか。
そうです、慣性モーメントが回転物の径の二乗に比例すると言う事は逆に言うと回転中心にある細い径のシャフト重量が増えてもあまり慣性モーメントの増加にはつながらないということになります。
シマノはそれを分かっていてアルミシャフトに比べて剛性が高く曲がりにくいステンレスシャフトを採用しているようです。
1%の慣性モーメント減少よりも堅牢さを重視した事になりますね。
それでも想定外の使い方をすれば曲がってしまいますが…。
本日の内容の結論としては、MGLスプールは重さだけで見ると決して軽量ではないが、目先の軽さに拘らずに強度等もきちんと考えて設計されている、という事です。
今日はスプールの自重や慣性モーメントについてお話してみましたがいかがだったでしょうか。
本当は一度で全部話し切りたいところですが、分割した方が読みやすいし理解もしやすいと思いますので本日はここまでにしたいと思います。
次回は、NewMGLスプールにある横穴の効果とラインを巻いた状態での慣性モーメントについてお話したいと思います。
(以上、「ふじ」さんよりの寄稿でした)
KenD的感想
と言うわけで、皆様今回の内容はいかがだったでしょうか?
個人的に、スプール重量が倍近く違っても慣性モーメントが同程度・・・というのは、ショック以外の何者でもありませんでした。
回転軸から遠い部分の重さが重要と言う事は耳にしていましたが、まさかこれほどとは・・・。
何だかんだ言っても、結局はスプール総重量が指標として一番大切なのではないか?と正直思っていました。
そんな私にとっては、軽量スプールに対する見方が根本から揺らいだ「事件」と言えます。
そしてサードパーティ製を含め、今後スプールを見る時は「総重量」よりも「シャフト素材」をしっかりと意識しようと強く感じました。
そんな既存の価値観をぶち壊す革命的な特別寄稿、後編は「MGLスプールの秘密とベイトフィネスの結論」を明かします!!
(ちなみに、基本的にavailとかKTFはステンレスシャフトみたいです)
※続編UPしました!
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コメント
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実際にスプールシャフトを抜き差しした知人によると、レボのシリーズはチタンっぽいとの事でした。
参考までに。
情報ありがとうございます!
チタンだとしたら凄いですね(゚∀゚)!
値段も凄くなりそうな気もしますが・・・。
素晴らしい記事です!
すごく勉強になります。
続編も楽しみにしています!!!
ありがとうございます、ご期待ください!
こんにちは、すごく勉強になりました。
ベイトフィネスに興味があるのですが、ベイトフィネスはスプールの重量が命だと思い込んでいました。
だから、シマノのリールはスプールが重いので使ったことがなかったです。
この記事でシマノのリールにも興味が出てきました。
ちなみに、16REVO-LTXで1gのジグヘッドにワームを付けて計1.5gをキャストしています。
メタニウムMGLでも1.5gくらいならキャストできるのでしょうか?
参考になりましたら幸いです!
スプールの重量よりも、ライン重量は極めて大きな意味を持つというのは私も驚きでした(^^♪
ご質問の件についてですが、この記事にある通り巻くラインの量や種類によってフィーリングは全く変わってくると思います。
また、何m飛ぶのを「キャストできる」と表現するかにもよるので難しいですね。
ただ、例えば14lbフロロをフル巻きしたとしたら、1.5gジグヘッドに4インチ程度のワームをつけて投げるのはかなり無理があるように思います。
深溝スプールは糸が巻かれていない状態では、確かに素材が中心に寄っているので、単体での慣性モーメントは小さく出ると思いますが、糸を巻いたら大きく変わるのではないでしょうか?
逆に、糸巻きを少なくするために、素材が外側に寄ってしまうベイトフィネスの”スプール単体での”慣性モーメントが大きく出るのは仕方ないと思います。
また、体積が大きく違うのに、スプールシャフトの素材を変えただけで、もう一方のスプールとほとんど同じ重量になるのは、他にどのような違いがあって軽くなっているのでしょうか?
長文失礼致しました。